小梅太夫

106:1:2011/08/04(木) 23:38:44.56ID:Rgy7umSk0
通勤電車で毎朝同じ時間に一緒になるカップルがいます。
見た所大学生風で、まず彼が始発の池袋で乗り、途中の成増という駅から乗る彼女のために、
自分の座っていた席を譲るという仲むつまじいカップルです。
そんな彼らが、ある朝突然ケンカを始めました。
僕は彼女の隣に座っていて、それまでi-podで上級フランス語講座を聞いていいたためケンカの原因は聞き逃したのですが、
彼女が何かを仕出かしたらしく、彼がそれに怒っているようです。

彼「はあー・・・。」
彼女「ごめんね。」
彼「・・・。」
彼女「ねぇ、ごめんね。」
彼「・・・しらねぇよ。」
彼女「ごめんなさい。」
彼「うるせぇな。」
彼女「・・・。」
彼「マジむかつくわ。」
彼女「だから謝ってるじゃん。」
彼「何?逆キレ?」
彼女「・・・ごめん。」

のような不毛なやり取りがエンドレスで続けられていました。
正直、男の長説教?ほど聞いていて気分を害すものもないのですが、常識はあるのか小さい声で言い合いしていたので
自分をはじめごく近辺にいる人間しかその小さな異変に気付いている人はいません。
上記のようなやりとりが10分近く続いた後でしょうか、突然向かいに座っていた外人二人が笑い始めました。

108:2:2011/08/04(木) 23:40:21.08ID:Rgy7umSk0
「ちゃんちゃかちゃんちゃ、ちゃちゃんちゃちゃんちゃん♪」
「チュクショー!」
「Hahahahahaha!!」

どうやら小梅太夫の話題だったらしく片方のお調子者が小梅太夫のモノマネで相棒を笑わせてます。
小梅太夫で笑ったことは今まで一度も無かったのですが、外人を通してやられるとたまりません。
本物も酷いですがさらに酷い振り付けでフラフラと手を動かしながら歌い、特に「チクショー」の発音と顔が絶妙で、
面白さは本家の小梅太夫など足元にも及びません。
一方でカップルは相変わらず難しい顔をしてケンカを続けています。
僕は外人のギャグに顔をほころばせていたのですが位置関係がまずく、斜め前に立っている彼氏から自分の顔は丸見えです。
別に二人の痴話喧嘩を笑っていたわけではないのですが、喧嘩の真っ最中の彼にしてみれば後ろにいるふざけた外人など蚊帳の外でしょう。
結果として、僕が二人の喧嘩を笑い彼らに喧嘩を売るようなカタチになってしまい、彼氏がこちらを睨む様に見ています。
誤解だ、と思いつつも面倒を起こしたくないので、仕方なく下を向いて笑いをこらえました。
そんな中、外人は以前にも増して盛り上がり始め

「チェ、チェ、チェ、チェックショー!!!」

とアレンジまで加える始末で僕の複雑な立場などお構いありません。
さらにテレビのように見せたかったのか、顔を前後に動かし擬似ズームアップ・ズームアウトで大雑把な西洋人のくせに細かい演出までつけています。
相棒の外人も非常なゲラでいちいち大笑いし、これまた外人の癖に完全な太鼓もちの役割を果たしています。

こうなると僕の我慢にも限界があり何度か噴出してしまったのですが、ちらりとカップルを見ると二人の会話も完全に止まっています。
どうやら僕への誤解も解け、二人にもスイッチが入ってしまったようです。
よく考えると笑えない立場としては僕よりも彼らの方がずっと重いわけで、それまで演じていた「二人だけの世界」に突然到来したふざけた外人は、
まるで黒船来襲のごとく二人に開国を迫ったのです。彼らも面倒なときに喧嘩をしたものです。

109:3:2011/08/04(木) 23:41:22.27ID:Rgy7umSk0
さっきまで涙目だった彼女の目は完全に乾いています。
彼氏は意味も無く中吊り広告を見ています。
外人フィルターを通したニセ小梅太夫は破壊力抜群で、僕はもう完全に笑っていました。
恐らく二人のダムの決壊も近いでしょう。
彼氏は「怒り→笑い」彼女は「哀→笑い」と、どちらも感情のベクトルを大舵一杯で回さねばならずかなりのストレスです。

ところがあともう一息というところで(僕の勝手な判断ですが)外人二人はその話題を止め、英語で普通に話し始めてしまいました。
「残念、あと少しだったのに。」(何がだ。) 車内には静寂が訪れ、カップルもなんとか噴出さずに済み、
しかし喧嘩を再開するのも馬鹿馬鹿しいと思ったのかお互い下を向いたままです。
僕もやや消化不良でしたが、変わり映えのしない通勤電車で面白いものを見せてもらって満足で、今度は上級イタリア語講座を聞こうと思った矢先に

「チュクショー!」
「ぶひゃひゃひゃひゃ」

と突然また外人がやり始め、今度は近辺にいた人間全員が噴出しました。そのすごい「間」をどこで勉強したんだ。
恐るべしヤンキー魂。そりゃ戦争に負けるわけです。結局、僕が降りるまでずっと続けていました。

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